有言実行の極み
東京での生活を再開して2カ月が経とうとしている。
通勤時、電車に乗っている時間が長いので、
読む本の量も増える。
このブログは読書日記の代わりにも活用している
ので、当然記事も増える。
今回は、漱石の『文芸の哲学的基礎』
(講談社学術文庫 1978)。
1907年(明治40年)4月の東京美術学校での講演
である。
明治40年4月といえば、
思い切って大学教師の職を辞し、
春寒の京都への旅から帰ってきたころか。
作品で言えば、『二百十日』、『野分』の後、
『虞美人草』前夜である。
漱石は、芸術家の卵たちを前に、熱く語る。
文芸家(これは芸術家と読み替えてもよかろうが・・・)
は、「理想」をその作品に表すべきだと言う。
ここで言う「理想」とは、「真の一字にあるに相違ない」。
言い方を変えれば、
「いかにして生存するのがもっともよきかの問題に
対して与えたる答案」
である。
さらに言い方を変えれば、
「人生に触れる」ことである。
そして、文芸家の「理想」が完全なる技巧をもって
その作品に表現され、
それに接する者、すなわち鑑賞者の方でも
それを受け入れることができる程成熟している時に
鑑賞者は「還元的感化」を受ける。
換言すれば、
文芸家と鑑賞者の「一致した意識の連続が我々の
心のうちに浸み込んで、作物を離れたる後までも
痕跡を残す」のである。
そうなれば、
「文芸家の精神気魄は無形の伝染により、
社会の大意識に影響するがゆえに、
永久の生命を人類内面の歴史中に得て、
ここに自己の使命を完(まっと)うしたるもの」
となるのである。
この講演後、
『虞美人草』、『三四郎』、『それから』、『門』
といった作品が次から次へと、
精力的に産み出されていく。
有言実行の極みである。
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